第十回目 土佐鶴酒造株式会社

第十回目 土佐鶴酒造株式会社

フランスのフォションで土佐鶴大吟醸が販売されていると知ったのはもう30年以上前のことである。当時の土佐鶴TVコマーシャルは幕末の坂本龍馬と陰で支える大和撫子を想像させるドラマティックなもので土佐の高知に土佐鶴ありの大変ノスタルディックな昭和時代の企業戦士を震えたたえるようなものであった。土佐鶴といえば淡麗辛口できっと龍馬も戦友とこの酒を呑み、語り、そして戦ったのではと思わせるものだった。


土佐鶴酒造は私の中ではどうしても訪問させていただきたい酒蔵でことあるごとにその機会を探ってきた。今回営業部の南部課長にお会いする機会があって直接訪問させていただきたいとお願いしたところOKの返事をいただいたものである。

ついにやってきた土佐鶴北大野・千寿蔵・天平蔵

土佐鶴酒造は高知県安芸郡安田町安田にある。

3月10日私はカメラマンの井戸さんと一緒にいつものようにJR+奈半利線で安田まで行くことにした。井戸さんは酒蔵訪問記の特別な瞬間を切り取ってくれるなくてはならない人である。

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安田駅では南部課長自らに出迎えていただいた。恐縮して気合を入れ直した。

安田駅から車で5分くらいの高台 安田町工業団地に土佐鶴北大野・千寿蔵、天平蔵はある。そびえたつといった方がいい。
ここでまた上甲部長に出迎えていただいた。つまり待っていて下さったのだ。

第十回目 土佐鶴酒造株式会社

土佐鶴酒造は安田工業団地に平成6年精米工場 平成8年千寿蔵 平成12年天平蔵平成13年に配送センターが出来上がった。とんでもないくらいすごい工場だ!

とにかくすごいの一言である。4万石の設備
40000x150kg=6000000kg
つまり6000トンの酒を醸造できる設備なのだ。
(千寿蔵の様子は後述)


1石=10斗(100升)(150kg)
1斗=10升(約15kg)

精米工場

まずは精米工場から見せていただいた。
工場内には山田錦 岡山米 などの紙袋がパレット上に何段も重ねて置かれている
精米機は7台稼働していた。これが6000トンの規模なのだ。
ここでベテランの精米士によって精米された米は一旦白米タンクに送られ洗米を待つ。
65%、70%精米は洗いながら水といっしょに千寿蔵へ送られていく。
水分調整は浸漬タンクで監視されている。
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土佐鶴は毎年11月1日にしぼりたて新酒の瓶詰めが始まる。そのため9月には蔵入り9月から翌年の5月が一年の醸造期間サイクルとなる。

天平蔵を訪問する。

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ここは近代的な大変清潔な蔵で主に吟醸酒用の蔵である。
洗米機 甑 放冷機 発酵タンク 仕込室 製麹室 搾り機
どこをとっても整理整頓 完璧に清掃されているのがわかる。

この設備の中でなんといっても注目すべきは発酵タンクである。もちろん空調室に設置されているがこの温度制御が素晴らしいものになっている。

タンクごとに温度管理されていることは容易に推測できる。もちろん低温で発酵させるための冷却装置であるがさらに言えばタンクによって味わいにばらつきが出ないようにすべてのタンクの吟醸酒を同一品質にするための制御装置なのであろうと思われる。またタンクはステンレス製である。鉄タンクの内部コーティング式は震災によってコーティングが剥がれ落ちてしまうのでそれを避けるためである。

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土佐鶴酒造はこれだけでは終わらない。
次に千寿蔵を訪問した。

千寿蔵訪問

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まず貯蔵庫から見せてもらった。む・む・むでかい。つぶやいてしまう!
コバルトブルーにぬられた貯蔵用タンクがずらりと並ぶ。圧巻である。
一室に200石のタンクが20本ある。それが四室あるのだ。
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NSK搾り機は3台ある。
仕込室の特徴はタンクに足がついていることだ。蔵人が腰を痛めることのないように高くしてある。人に優しい酒蔵である。
生貯蔵室はタンク内が-3℃になるよう不凍液を冷却用に使用して生原酒を貯蔵している。
甑は大容量を処理できる。放冷機は冷風で冷却できる。
酒母室も背が高くなっているのは仕込みタンクと同じ理由で人に優しく設計されている。
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淡麗辛口の土佐鶴がその姿勢を崩さず人にも優しく高品質であり続ける姿を千寿蔵、天平蔵に見せていただいた。
これで酒蔵の全部を見せていただいた。

試飲

お酒の神様にまず手を合わせる。

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本醸辛口 : 松山三井・あけぼの他
純米酒 : 松山三井・あけぼの他
特別本醸造 超辛口 : 松山三井、あけぼの他 日本酒度:+12
純米吟醸 豊穣 : 山田錦
純米吟醸 平安の夢 : 吟の夢他
吟醸 アジュール : 山田錦 辛口
吟醸 大吉祥 : あけぼの・松山三井他
純米吟醸 銘鶴 : あけぼの・松山三井他
大吟醸寧浦 : 山田錦
大吟醸原酒 天平 : 山田錦
純米大吟醸 : 山田錦
あわつる : 松山三井 他 アルコール度:12度 スパークリング

土佐鶴のお酒はこちら
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全国新酒鑑評会で金賞を42回受賞している土佐鶴は表彰状が壁に掛けられている。
近年の金賞受賞酒の傾向は単に淡麗辛口ではなく香りが良く旨口の方向にあるようで連続して受賞できるのはかなりの努力が必要であると思われる。つづけて挑戦していただき連続受賞を続けてほしいと望みます

さて。
12種類の土佐鶴を利かせてもらった。特に印象に残ったものをここに記すことにする。
まずは
特別本醸造 超辛口 : 松山三井、あけぼの他 日本酒度:+12
日本酒度+12 は限界だそうだ。これを燗するとふくよかな土佐鶴に変身する。厳寒の季節は燗酒派にはうれしい。

続いて
吟醸 アジュール : 山田錦
ボトルからして清酒ではなくワインのようである。深海のイメージで海洋深層水が使われている。アメリカ、ヨーロッパ、中国、ドバイなど輸出されているようである。和食だけでなくフレンチにもピッタリである。

第3は
あわつる : 松山三井 他 アルコール度:12度 スパークリング
純米酒に炭酸ガスを吹き込んで さらに淡麗辛口なおかつアルコール度:12度である
これを乾杯用の清酒として高知県は使うべきではないだろうか?
出来れば高知県産米を使い純米酒で炭酸ガスを含み淡麗辛口の清酒を高知県の正式乾杯酒として高知県が認定する。公用の場のみならず高知県ではこれを必ず乾杯に使うというのが私からの提案である。

キールというカクテルを知っていると思う。白ワイン : カシス・リキュール = 4:1 ~ 9:1

フランス、ブルゴーニュ地方のデイジョン市の市長であったキャンノン・フェリックス・キール氏はブルゴーニュ地方特産のアリゴテと言う辛口の白ワインと、同じくブルゴーニュ地方特産のクレーム・ド・カシスと言うカシス・リキュールを用いて、このキールというカクテルを作ったのである
そして、このカクテルを普及させるために、ディジョン市の公式歓迎会(レセプション)では必ずこのカクテルを供するなどのPR活動を行った。その結果キールは全世界に拡散した。
またキールとシャンパーニュのカクテルはキールロワイヤルとして知られている。

もうひとつ
純米吟醸 銘鶴 : あけぼの・松山三井他
まず最初にこのラベルのデザインがとっても素敵である。鶴を誇張していないし奥ゆかしい。
シンプルである。まさしく淡麗辛口の香りを感じる。

落ち着いた気持ちで開栓する。グラスにさらさらと注ぐ第一印象の香りを利く。
やさしい吟醸香を感じる。味わいはラベルから感じるのと同じ淡麗辛口である。土佐鶴の伝統はここでも生きている。土佐の皿鉢料理にピッタリである。料理の邪魔はしない。話が弾む間にいつの間にかボトルはからっぽだ。龍馬の時代がよみがえる。

トレンドは芳醇旨口にもその流れを与えている。しかし土佐鶴はあくまで淡麗辛口を守っていると思われる。
土佐人には誇れる土佐料理がありおきゃくの伝統は続いている。料理を楽しみながら友と歓談するには土佐酒は欠かせない。その土佐酒は料理や友との語らいを邪魔することなくさらに盛り上げる効果を持っている。淡麗辛口はそのためにはなくてはならない個性ではないだろうか。
そこに土佐鶴の姿勢を伺えるような気がする。

土佐鶴酒造様有難うございました。